乙和瓢湖 落花流水の情
「唵!」
左手の梵字と奇声で相手に一瞬の虚を作り、鉄矢で仕留めた瓢湖。
依頼された暗殺をこなしたが、その表情には若干の曇りが見えた。
「調子が悪いな……」
左腕に仕込んでいる暗器“梅花袖箭”の鉄矢が鉄筒に引っかかって放たれている感覚があった。
ここぞという瞬間に鉄矢が放てなければ、返り討ちに遭うかもしれない。
瓢湖は斃した男の髪の毛を切り取りながら、そろそろあいつの元へ顔を出そうかと思案する。
あいつというのは梅花袖箭をはじめとする暗器の調整を依頼している女技師のことだ。
ここから一、二日歩けば技師の館に行くことができる距離である。
幸い仕事は入っていないため、梅花袖箭が故障する前に見てもらったほうがいいだろう。
瓢湖は切り取った毛髪を懐紙に包んで懐に入れ、鉄矢を回収したのち、近くの町へ向かった。
翌朝、町の菓子屋を覗いて日持ちしそうな菓子がないか物色する。
小さな田舎町では特に真新しい物はないが、手ぶらで行くのも気が引ける。
瓢湖は彼女が好みそうな淡い色合いと形が可愛らしい落雁を購入し、すぐに町を出た。
女技師の館に着いたのは、翌日の昼前だった。
想定より早く着いたな、と自分でも少し驚き、重厚な扉を開く。
「キャァァァァァ!!!」
「!?」
途端、耳に入るのは女の金切り声と陶器の割れる音、そして刃物を受け止めたような金属音だった。
悲鳴だけなら御器噛(ごきかぶり)でも出たかと笑い話になるが、耳なじみのある金属音に瓢湖の顔は強張る。
弾かれるように走っていつもの作業部屋に一歩入ると、そこには腕につけた鉄甲で大男の振る斧を辛うじて捌く女技師がいた。
捌くといっても上下左右から迫りくる斧に当てているだけで、その度によろけてたたらを踏んでいる。
痩躯でありながら転ばないのは奇跡に近かったが、このままだと彼女はやられてしまう。
瓢湖は、男の斧が鉄甲に当たった動作の終わりを見計らい、右手で絹糸を引いて梅花袖箭から鉄矢を放った。
微かな風切り音に男が気づくも時すでに遅し。
鉄矢は吸い込まれるように男の喉に刺さり、男は一言も発さずに後ろへ倒れて動かなくなった。
「へぇ……?」
「何が『へぇ……?』だ。死ぬところだったぞ」
「瓢湖?!」
「久しぶりだな、」
技師──はこの場にいるはずのない男の声に振り返り、瓢湖を視認すると涙目になった。
瓢湖は男の亡骸へ近づいて鉄矢を引き抜き、その巨体を足でつつく。
「で、何があったんだ?」
「んー……その人、指がなくなったから装着できる斧に作り替えたんだけど、金額が気に入らなかったみたいで殺されかけたの」
「……見積もりは」
「もちろん出したし、上乗せ請求してないよ!」
それならば元々踏み倒すつもりだったのだろう。
瓢湖は感情のこもっていない瞳で男の骸を見下ろす。
の腕の良さとそれに見合わない安価な請求額に気づかず、支払いをごねて命を落とすなど無様としか言いようがない。
そう思っている瓢湖の耳は、再びの絶叫を捉えた。
「ギャァァァ!!傷ついてるーーーー!!!」
散々斧による打撃を受けていた鉄甲の表面は、刀傷や凹みが見受けられ、はガックリと肩を落とした。
人間嫌いで引き篭もりのが鉄甲など使うわけがなく、客からの預かり品を傷つけたとなれば落ち込むのも頷ける。
しかし、その鉄甲があったからこそは命の危機を脱したとも言える。
もっとも瓢湖がいたからではあるが。
瓢湖はの隣に立ち、鉄甲を覗き込む。
「この持ち主は、あいつみたいに逆上して襲ってくるか?」
「ううん、むしろ『死ななくてよかったじゃねぇか!ハッハー!』って笑うと思う」
「そうか、それならいい」
「そうだけど……ちょっと強度に不安があるし、配合変えて造りなおそうかな……」
「はぁ……」
よく見ればにはいくつもの擦り傷や刃先がかすったのか切り傷が見受けられた。
傷つき、死にかけたことも忘れ、武具のことを気にしている姿に、瓢湖の口からは呆れたため息が漏れる。
彼女の思考を断ち切ろうと、瓢湖は自分よりも下に見える小さな頭に落雁の入った袋を置いた。
「わっ……え、これお菓子?!」
「あぁ、近くの町で買ってきた」
「わぁ~!!可愛い落雁だ!いつもありがとう!……助けてくれたのもありがとう!」
「君に死なれると困るからね」
設計図や様々な部品が散らかっている大きな机に鉄甲を置き、は紙袋の中を覗いてニヒヒと顔を緩ませる。
ころころと表情を変える彼女に瓢湖もつられ、口元は弧を描いた。
「あ、そういえば瓢湖はどうしてここに……って“めんて”しかないよね」
「梅花袖箭の調子が悪いから見てもらいたくて来た」
「ありゃ、それは一大事だね」
「君の方が一大事だったが」
「確かに!あはは」
「……」
カラカラと笑うを見て、彼女を気にするのも馬鹿らしいと思っていると、柱時計が十二時を知らせる。
「瓢湖、ご飯食べてってよ」
「かまわないが……君が作るのか?」
「何その顔!結構美味しいんだから!……多分」
付け加えられた“多分”に不安を感じるが、女性からのお誘いを断ることもできず、瓢湖は不承不承首を縦に振った。
瓢湖が承諾したことが嬉しかったのか、は頬を桃色に染めると鼻歌を歌い始める。
そして、もらった紙袋を鉄甲の近くに置き、男の遺体を跨いで窓を開けると桟に足を掛けて中庭に降りた。
(はしたないな……)
は動きやすさを好んで股引を穿いているため肌は見えないが、窓から外へ出る行為に思わず眉をひそめてしまう。
そんな瓢湖などおかまいなく、は窓の向こうから手招きをする。
「野菜獲るから手伝ってー!」
「はいはい」
命乞い以外の女性の頼みは断らない瓢湖は、二つ返事での後に続く。
窓枠から軽々と飛び降りれば、はヒュゥッと口笛を鳴らして「そこらへんのどんな女よりも色っぽいねぇ」と悪戯っぽく笑った。
瓢湖がムッとして難色を示すと、彼女はごめんごめんと軽く謝り、中庭の奥にある狭い畑へ足を進める。
以前──冬に来た時はこのような畑はなかったな、と思い返し、瓢湖は先を行くの背中を見つめる。
彼女に会うのは半年ぶりだった。
一年で二回なら今生はあと何回、何日会えるのだろう。
自ら会いに行けばいいのだが、依頼があれば全国を巡るため、足繫く通うことは難しい。
それに、瓢湖には彼女の元へ行く理由が暗器の調整以外に思いつかなかった。
「どうしたの?」
「!」
考えあぐねているうちに足が止まっていたようだ。
一足先に畑で収穫したのか真っ赤な見慣れない野菜を持ったがこちらを見ていた。
毒々しい色のそれは、陽の光を受けて艶々と輝く。
瓢湖は眉間を狭め、その得体の知れない赤い物体を睨んだ。
「なんだそれは……」
「ん?赤茄子」
「赤茄子……?」
が赤茄子を差し出すので受け取り、鼻先に近づけて匂いを嗅いでみる。
青臭い。蔕の部分が特に。
「本当に食えるのか?」
「もちろん!齧ってみて」
「……ヴェッ!!」
「キャハハハハッ!」
ぐじゅぐじゅの水分が多い肉質ぶつぶつぬるぬるとした種らしきもの、そしてガツンとくる酸味と想像以上の青臭さに、瓢湖は思わず口の中の赤茄子を地面に吐き出した。
ゲラゲラと腹を抱えて笑うは、生の赤茄子が口に合わないことを分かっていて食べさせたのだろう。
額に青筋を立てる瓢湖を無視し、は食べごろ(?)の赤茄子を次々に獲っていく。
「おい!まさかこれを食わせるってんじゃねェよな?」
ぺっぺっと唾を吐き、素の口調に戻る瓢湖を一瞥し、は小さく頷いた。
冗談じゃない!
自分の予感が当たった瓢湖はゲェッと嫌悪感を顕わにし、梅花袖箭を預けて帰ろうかと黙考し始める。
だが、にはお見通しだった。
「男に二言はないもんねぇ?」
「ぐっ……!」
昼食の誘いを受けた自分が恨めしい。
言い抜けに窮した瓢湖は、嫌々ながら言われるがままに赤茄子獲りを手伝った。
熟れているもの全てを獲り終え、土間に続く勝手口まで赤茄子を運んだ二人。
はそのまま調理に取り掛かるようだ。
「あ、そうそう。男の遺体、処理しといてくれる?」
「ん……?」
そう言いながら渡された鍵には“酸”と書かれた札がついていた。
「作業部屋よりずっと奥の突き当りの部屋に酸を溜めてる桶があるから、そこに浸けといて。あ、ゆっくり入れてね。跳ねたりしたら瓢湖も溶けちゃうかも」
「……」
恐ろしい女だ。
そもそも何故、酸など溜めているんだ、どこで手に入れたのか、何に使うつもりなのか──気になったが、聞いたら自分も溶かされそうな気がする。
瓢湖は無言で土間を抜け、の作業部屋へ向かった。
男を酸に浸け終え、暗鬱とした気持ちで廊下を歩く。
酸に浸けた時の肉の焼ける臭いが、鼻奥にしみついて食傷気味だった。
この後にあの赤茄子を使った料理が振る舞われるだなんて、今日は厄日かもしれない。
(いや……そうでもないな)
瓢湖がここに来なければ、数分でも遅ければ、の命は失われていた。
その点に関しては運に恵まれていたと言える。あとは食事が口に合えば……。
土間に近づくほどに濃くなる嗅ぎ慣れない香りが、人肉の焼けた臭いを上書きしていく。
匂いだけなら美味そうだと思い、瓢湖は土間を覗いた。
赤茄子でも煮込んでいるのか蓋がされた銕葉鍋。
その隣でゆらゆらと白い湯気を昇らせている錻力の鍋は湯を沸かしていたのか、はその中に籠山盛りのマッケローニを一気に入れた。
銕葉鍋の蓋を開けて煮込んでいる赤茄子が焦げないようにかき混ぜ、再び蓋をし、もう一品作るのか新しい銕葉鍋を取り出して空いている竃に置く。
そこで一息ついたは振り返り、土間の壁に体を預けてこちらを見ていた瓢湖を目にしてビクッと体を揺らした。
「びっ……くりしたぁ……声かけてよ」
「意外と手際が良いから見入ってしまった」
「なんか瓢湖が言うと嫌味かと思っちゃう」
「……出身地のことか?」
「ちっ、違う違う!そんな京都の人に失礼じゃない」
「私に対して失礼だ」
「ご、ごめんね?」
暗器使いの瓢湖の言葉は何が真で何が偽かわかりづらく、瓢湖自身のことを言ったのだが──
えへへ、と笑って謝れば、彼は不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「あ、そうそう!マッケローニが茹で上がるまで時間かかるから梅花袖箭見せてくれる?」
「君の手当てが先だろう」
「ん?こんなの勝手に治るよ。そんなことより梅花袖箭が気になる」
「……」
男に襲われた際に出来た傷は既に血液が凝固していて、青白い肌にぽつぽつと咲く赤が目に入ると痛々しさを感じる。
せめて綿紗(ガーゼ)でも貼って欲しいのだが、は自分の怪我よりも梅花袖箭が気になるようで、勝手に瓢湖の左袖を捲っている。
手当てを諦めた瓢湖は梅花袖箭を外し、投げるようにに渡した。
は梅花袖箭に装着されている鉄矢を抜いて台に置き、鉄筒をかざしてしげしげと眺める。
職業柄だから仕方ないのかもしれないが、自分よりも他人の武器を優先する彼女の姿勢が瓢湖は気に入らなかった。
「瓢湖、左の銕葉鍋かき混ぜといて」
「はいはい」
この様子だと料理よりも低そうだと思いながら、瓢湖は銕葉鍋の中の真っ赤な糊状の塊をかき混ぜた。
梅花袖箭は本体のバネが緩んでいて、発射操器も部品がずれているらしく、修理に少々時間がかかるとのことだった。
すぐに修理できないと分かると、は瓢湖に梅花袖箭や鉄矢、発射操器を作業部屋に置いてくるように頼み、他に“めんて”の必要がある暗器も、と付け加えた。
何か他にあっただろうか、と少し考えた後、瓢湖は梅花袖箭一式のみ預けることにする。
一度にまとめて修理してもらえば手間は省けるが、ここに来る機会も減ってしまう。
(この持ち主はどのくらい来ているのか……)
瓢湖は作業台に置かれている鉄甲の傷を指先でなぞる。
他に顧客がいて当然なのに、いざ自分以外にも彼女を訪れる者の存在を知らされると胸の奥でチリチリとした苛立ちが生まれた。
中庭の畑には赤茄子のみが鈴なりに実っていて、一人では食べきれないように思える。
自分以外にも振る舞っているかもしれない──それが気に食わず、瓢湖は大きく舌打ちした。
「瓢湖?どうしたの?」
「……!!いや、なんでもない」
「すごい舌打ちしてたけど……さてはお腹がかなり空いてたり?!ちょうど出来たよ!」
「はぁ……」
へらへらと能天気な彼女を見ていると、先ほどの苛立ちも薄れていく。
は瓢湖の抱いている気持ちなど露知らず、無遠慮に彼の腕を掴み、ぐいぐいと引っ張って歩き始めた。
逆らう理由もなく、瓢湖は自身の腕を引くに大人しくついて行くのだった。
着いたのは白を基調とした部屋で、中央には丸い食卓と椅子が四脚置かれている。
食卓の上には見事に赤い料理ばかり並べられていて、甘酸っぱいような匂いが充満していた。
「さっ、瓢湖は奥の席ね。一応上座とか知ってるからね」
「そんなところを気遣うよりも……食事の方を……」
「意外と美味しいし、節約も兼ねてるんだから文句言わないの!」
「節約……?」
彼女の言葉が引っかかったが、は話を切り上げたいようで「いただきます」と手を合わせて食事を始めてしまった。
瓢湖も一旦は口を噤み、肉刺銕(フォーク)を取るとどろどろの赤茄子がかかったマッケローニを刺し、まじまじと見つめる。
「これは、どんな料理だ」
「それはね、マッケローニのスチュードトマースがけ」
「すちゅ……?」
「ほら、お蕎麦にとろろかけるじゃん。それと一緒一緒」
「……」
とても蕎麦と同列とは思えないが、せっかく作ってくれたのだし、と瓢湖は意を決して赤い汁に塗れたマッケローニを口に入れた。
「……!」
まろやかになった赤茄子と牛酪(バター)の香りが口内にふわっと広がる。
畑で齧った時の青臭さはあまり感じられず、強かった酸味も和らいでいい塩梅となっていた。
マッケローニは芯もなくしっかりと茹でられていて、かといって茹ですぎてはいないモチモチとした食感が楽しい。
思わず肉刺銕を動かし続け、黙々と食べる瓢湖。
そんな彼を見つめ、はしまりのない表情で口を動かした。
しばらく無言で食事にいそしむ二人だったが、半分ほど胃に収めたところで瓢湖は口を開く。
「さっき節約と言っていたが厳しいのか」
「んぐっ……いきなり、なにっ……」
「顧客は何人いる?」
「……三人だったけど、今日二人になった」
はマッケローニを喉に詰まらせかけ、ぬるめのお茶で腹まで流し込んで苦しそうに答えた。
一方で瓢湖はの顧客の少なさに眉間を寄せる。
ただでさえ安いのに客が二人だけ──しかもそのうちの一人は半年に一回しか来ないし、鉄甲の持ち主も毎月来ているわけではないだろう。
赤茄子料理を“節約”と言ったのも頷けた。
「そんな少なさでやっていけるのか?」
「うーん……瓢湖はあと半年は来ないでしょ、番神──鉄甲の人なんだけど、今回頑丈に造りなおすからしばらく来ないだろうしなぁ……。赤茄子食べて凌ぐしかなさそう」
「それなら私と一緒に来るか?」
「……へ?」
唐突な誘いには口を丸く開ける。
その間抜け面にやはり言うべきではなかったかと瓢湖は軽く唇を噛んだ。
過去に何があったか知らないが彼女は心底人間が嫌いで、初めて会った時も酷く不愛想だった。
今でこそ人懐っこくころころと表情を変えるが、そうなるまでどのくらいの時間がかかったことか。
漸く心を開いてくれたのに、今誘ったことで再び心を閉ざしてしまうかもしれない。
しかし、こんな辺鄙な場所で一人で過ごし、自らの怪我も省みないを放っておけなかった。
瓢湖は、が悩むことなく即座に断りを入れるだろうと思っていたのだが──
「うーーーーん……瓢湖とかぁ……」
予想に反しては口をへの字にして悩んでいた。
押せばいけるかもしれない。そう思った瓢湖は畳みかけることにした。
「北海道には“はしかぷ”という果物があるらしい」
「“はしかぷ”……?なにそれ!」
「知らん。私も食べたことがない。長崎の“かすていら”は美味かったぞ」
「えっ、食べたことあるの?!ずるっ!」
「何がずるいだ。あと横浜の“あいすくりん”は冷たくて甘い菓子で、このくらいの器で二円だった」
「高すぎ!!……それなのに“あいすくりん”食べたの?」
「あぁ。滅多に食べられないからな」
「……」
瓢湖の畳みかけとは気づかずに珍しい菓子の話を自慢されたと思ったは、ぷーっと頬を膨らませてマッケローニを咀嚼する。
そんな彼女の様子に瓢湖はほくそ笑み、赤茄子の汁物を飲み干した。
少し冷めてきたマッケローニを頬張っていると、向かいのはカチャンと音を立てて肉刺銕を置く。
「……私、瓢湖と一緒に行く」
「……本当か?」
「そっちが誘ってきたのに何で聞くのよ」
「いや……少々意外だった」
「意外って……でも鉄甲を造ってからと赤茄子を全部食べてからかな、行くのは」
残り少ないマッケローニでスチュードトマースを拭うように絡め取り、瓢湖は赤茄子の苗を思い出す。
まだ青い実がいくつかなっていて、その数もこれから増えていきそうだ。
出立はいったいいつになることやら──それにその間、の気が変わって行かないと言われたら落ち込んでしまう。
たかが小娘一人にここまで心を乱されるとはとんだ誤算だ。
自然と険しい表情になっている瓢湖を見て、はわざとらしく咳払いをする。
「ねぇねぇ、“めんて”だけじゃなくて、今度は赤茄子を食べに来てよ。二人で食べたらすぐになくなるからさ」
「それは、そうだが」
「実は人に御馳走するの初めてでちょっと緊張したんだよね!けど瓢湖の食べっぷりみたら安心した!」
「……そうか」
意図せぬところで気になっていた事実が判明し、瓢湖はにやけそうになるのを堪え、肉刺銕に刺さったままのマッケローニを口に突っ込んだ。
そんな瓢湖などおかまいなしには話を続ける。
「瓢湖ってば全然来てくれないんだもん。だから今日は会えて嬉しかったんだぁ。助けてくれた時すっごくかっこよかったし!なんかキラキラ~って輝いて見えたよね!」
「っ……黙れ、調子に乗るんじゃねぇ」
危うくマッケローニを吹き出しそうになり、瓢湖は口を押えてギッとを睨む。
荒くなった彼の口調と睨まれたことにはきょとんとしたが、すぐに瞳を半月状にした。
「ふふ、大きな赤茄子だなぁ」
その言葉に自分の状況を把握した瓢湖は舌打ちをし、そっぽを向いてお茶をすする。
いつもより幼く見える彼の横顔を目にし、はくすくすと忍び笑いを漏らした。
まっすぐな言葉で逆に虚を突かれた『人間暗器』、おそらく『技師』に勝てる日は来ないだろう。
2023.02.12